コンテンツへスキップ

カート

カートが空です

記事: Mays Journal 表現する人の記録

Mays Journal  表現する人の記録

Mays Journal 表現する人の記録


Vol.01 「砂は、時間を重ねる。」

 Featuring

Sand Artist 井上 真衣子 

Words

Mays 篠崎 幹子

 

 

 Prelude


砂は、崩れながら形をつくる。


風が吹けば流され、

指先で触れれば崩れていく。


積み重ねた一粒は、もう元には戻らない。


それはどこか、歩んできた時間の感覚に似ている。

 

 
——『砂』で、見えない時間を形にする人。——


私が最初に会いに行ったのは、

サンドアーティスト・井上真衣子さんだった。

 

   

 I. Time 


 「この作品は砂を下から積み上げて描いていくんです。」

その言葉を聞いたあと、

彼女が作品について書いた一文を思い出した。


— 積み重ねられた時間、想い、挫折、祈りの層 —


この波模様は、ただ美しいだけの模様ではなかった。


私の中で時間とは、歴史の年表のように

左から右へ流れるものだった。

けれど彼女が生み出す作品は、

時間は下から上へと積み重なっていく。


一粒、一粒。

過去が土台となり、

その上に今日、そして明日が重なっていく。


積み重ねた時間は目には見えない。

それでも彼女の作品の中では、確かに形になっていた。

  

 

II. Shield


時間という視点で作品を見たあと、

私はもう一度、作品の正面に立った。

そこではじめて、鉄のプレートに書かれた名前が気になった。

 

『SHIELD ART』

なぜ、『SHIELD』だったのだろう。

彼女は静かに話し始めた。

「SHIELDという名前には、いくつか意味があります。」

まず一つは、鉄でできた重厚な額装が、盾のように見えたこと。

そしてもう一つは、そのつくり方そのものだ。

砂を一層ずつ積み重ね、最後に鉄板を溶接して閉じる。

一度閉じた作品は、もう二度と開くことはできない。

「その姿が私には、作品を守る「盾」のように感じられました。」

さらに彼女は言葉を続けた。

「10年間サンドアートと向き合い続ける中で培ってきた

自分自身の信念も、この作品とともに

守り続けたいという想いがあります。

だからSHIELD ARTには、

『信念を守る盾』という意味を込めています。」

 

── 信念を守る盾 ──

 

その静かな意志は、作品の中に、確かに宿っていた。

 

 

III. Presence

 

並べられた作品を見て、 一つ気付いたことがあった。


ゴリラも、虎も、達磨も。

すべて真正面を向いている。

横顔は一つもない。

どの作品とも、自然と目が合う。

作品を見ているというより、

作品に見つめ返されているようだった。

不思議なことに、その視線は、

私を試すものでも、威圧するものでもない。


そこにあるのは、静かな存在感だった。

時間を積み重ね、

信念を守り、

ここに立っている。

そんな存在と、ただ向き合っている感覚だった。

彼女が作品について書いた文章を読み返すと、

そこにはこんな一節があった。

「達磨は動かず、語らず、ただ座して待つ。」

私はその言葉に、はっとした。

だから作品は、ただそこに在り、

静かに、誰かが向き合うのを待っている。


その佇まいこそが、この作品の本質なのだと思った。

 

 

Coda

 

作品を見終えたあと、私はもう一度、

最初の波模様を思い返していた。

 

あの波は、

時間だった。

信念だった。

そして、静かに在り続ける意思だった。

 

私たちは、つい目の前の見えるものばかりを追いかけてしまう。

けれど、積み重ねた時間の上に今、立っている。

 

本当に人を形づくるものは、

誰にも見えない時間なのかもしれない。

一粒ずつ積み重ねた日々。

迷ったこと。

折れそうになったこと。

それでも続けたこと。

そうした時間は、消えてしまうのではなく、

自分の中に静かに積み重なっている。

彼女は、それを砂で見せてくれた。

 


── 砂は、時間を重ねる。──

 

私たちもまた、時間を重ねて生きている。

その見えない時間を、彼女は今日も、一粒ずつ積み重ねている。

 

 

Epilogue

 

インタビューが終わり、私はリングケースを開け、言った。

「ぱっと見て一番気に入った石を選んでください。」


彼女が選んだのは、ロンドンブルートパーズ。

深く澄んだ青を見つめながら、

「私、インディゴブルーが大好きなんです。」

そう言って、深い青をしばらく見つめていた。

「この石には、どんな意味があるんですか?」

そう尋ねられ、私は答えた。

 

ロンドンブルートパーズの石言葉は、

『希望』 『誠実』 『真実を見抜く力』


時間を積み重ね、信念を守り、静かに前を向く。

今日彼女が選んだその青も、

歩んできた時間の続きを映しているようだった。


表現する人は、世界を少し違う目で見ている。

だから作品が生まれる。

そしてその視点は、

また誰かの世界を少しだけ変えていく。

今日という時間も、また一粒、積み重なったのだと思った。

Mays Journalは、そんな瞬間を記録していきたい。

 

 

Profile

井上 真衣子(いのうえ まいこ)

サンドアーティスト。

砂を積み重ねる独自の技法で、時間や記憶、祈りをテーマに作品を制作。

動物をモチーフにした作品を中心に、独自の世界観を表現している。

Exhibitions

  • 2024年 5月 ルーブル美術館出展(フランス・パリ)
  • 2025年 7月 上野の森美術館出展(東京)
  • 2025年  10月 Art Expo New York 出展(アメリカ・ニューヨーク)

福岡を拠点に、作品制作のほかスクール講師やオーダー制作も行っている。

Instagram:lovelye_colorsand

 

井上真衣子氏 着用リング

ロンドンブルートパーズリングを見る


 

Next Journal

Vol.02 Coming Soon.